日記帳

お題「手帳」

 

小学校一年生の春、日記帳を買ってもらった。

A6だかB6だか、それくらいの大きさのもので、ハードカバーで、色は水色で、白い小花と金色の髪の女の子の絵が描いてあるものだった。

とても気に入っていた。大きさも、色も、絵も、ハードカバーのところも。「完ペキ」だった。

 

私はその日記帳に、密かな恋の妄想を書いていた。近所の年上の男の子との。

例えば、「今日は〇〇君とデート。待ち合わせ場所は、公園のベンチ。その後マクドナルドでハンバーガーを食べて、その後手をつないて歩いた。最後は公園に戻って、ベンチでおしゃべりして、キスをして別れた。」みたいな内容。もちろん、「待ち合わせ」も「公園」も「別れた」もひらがなだったし、文章ももっと稚拙だったと思うけれど、だいたいこんな内容。

 

幼いころの私は、とてもませていた。ませていた、というと良い意味を含んでしまうかもしれないけれど、「歪んだ、大人への憧れ」を持っていた。だって、「手をつなぐ」とか「キス」とか、世の小学一年生は書くだろうか。

だけど一方で、自分では、こんなことに憧れて悶える自分を恥ずかしいとも感じていた。誰にも知られてはいけないと。

 

だからこの日記帳を肌身離さず持ち歩いていた。学校にも持って行っていた。家に置いておくと、私がいない隙に父か母が見ているかもしれないと考えたから。

 

そんな風に「秘密」を抱えてしまった小さな私は、そのことに次第に耐えられなくなってきた。妄想を書くことは、蜂蜜のように甘くて美しいものだったのに、その甘美なものを手にしていることの罪悪感。

そんな罪悪感、持たなくてもよかったのに。

 

以上が私の「手帳」の思い出です。